消えちまった悲しみに

ある日の早朝、PCを立ち上げた私は

溜まっていたデータのバックアップをとろうと思いついた。

線を繋いでいなかった外付けHDDをセットし、

始めは家計簿などの軽いものから移し、最後に写真データにとりかかった。

写真のフォルダは撮った地域毎に分かれている。

いつもは移したい地域のフォルダを開いて、そこに移すようにしていた。

 

だが、この日に限って何故かなのだろうか。そうしなかった。

多分めんどくさかったのだと思う。

PCからHDDへ写真フォルダごと丸々ドラッグ&ドロップしたのだった。

冷静に考えると何ら問題はない。新しいデータがHDDに加わるだけで。

この日の私は何かその行動に不安を感じて、

移動中に中止ボタンを押してしまったのだ。

 

いきなり止められたHDDの写真フォルダの中には5つのフォルダしか残っておらず、

私はここで、とんでもないことをしたと気づいた。

人はパニックになると更に悪い事を引き起こす。

その5つのフォルダしか残っていないHDDに、

これから移そうとしているPCの新しい写真データを上書きしてしまうという

失態をしでかしたのだった。

 

HDDでしょ?バックアップなんでしょ?

じゃあ問題ないじゃないと思われると思う。

私の場合、家計簿やテキストデータのような軽いデータは、

PCにもHDDにも同じデータが保存されている。

ただ写真データのような重いものはPCからHDDに移した後、

PCの写真データは削除していたのだった。

HDDにある写真データは、もはやバックアップの機能は果たしていない。

それはただ一つの保存場所に過ぎなかった。

 

ここで出勤時間が迫り、とりあえず電源を落とさないで家を出た。

通勤電車内ではデータを取り戻す方法をスマホで調べた。

やはり上書きしてしまったことはまずかったようで、

業者に頼んでも取り戻すことは難しいみたいだ。

帰宅し、HDDの写真フォルダを復元ソフトでデータを拾い上げる作業に入ったが、

時間がかかるのでPCつけっぱでその日はもう寝る事にした。

 

翌朝、拾い上げたデータが画面に表示されていた。

無事生きているものもあれば、壊れて見れないものもあった。

復元ソフトはここまでが無料で、

データを自分のところに取り戻すにはお金を支払わなければいけない。

ここで諦める選択肢は持ち合わせていないので、

約9,000円を支払ってデータを手に入れた。

中には2GBまで無料で手に入れられるものもあるみたいだけど、

今回はそれよりも容量が大きかったし仕方がない。

 

データをざっと見返すと3〜4割は取り戻せたようだ。

大した写真じゃない。

ほぼ風景ばかりで、同じロケーションを、

同じ季節で、違う年に撮ったものも多く見受けられた。

久しぶりに見返して懐かしく思えた。

 

失ったものは、今住んでる実家の犬が家にやってきた頃のものや

ビジネスクラスで行ったツアーとか、

今は亡きレトロビルやその屋上から撮ったものとか、

住まなかったけど内見だけした部屋だとか。

まだまだあるけど死んだ子の歳を数えるみたいで、

なんだかどうしようもないからやめておく。

ただ残ったものよりも、

バラエティに富んでいて少し悔しかったのだ。

 

とりあえず今後の為に書いておく。

早朝にバックアップをとらないこと

②うっかり削除した場合、

 対応策が思いつくまでそのままの状態にすること

③②の状態になったら、絶対に上書きするな

 

↓無事生還した写真の一枚 

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